2010年5月10日月曜日

弾言 成功する人生とバランスシートの使い方 小飼 弾, 山路 達也 著

かなり久々のブログになってしまいました。今回はブロガー小飼弾さんのこの本をiPod touchで読んでみました。

著者の思想の中に「モノの見方は人それぞれ」というものがあり、それは私も全くその通りとは思うのですが、どうも本書には納得のいかないところがありました。

その主張の根幹となるのが、「プッシュ型」の情報を全部捨てるというもの。テレビを見すぎるのは良くないというのには私も同意しますが、著者は「全部」捨ててしまうことで見落としてしまっていることが少なくないんじゃないかなぁと、本書全体を通して感じました。

その最たる例が、著者が本書で延々と述べているバランスシートに関する話。会計やファイナンスに関して、局所的なことばかりが着目されてしまい、全体が一部誤った方向に行ってしまっているように感じます。

例えば、初めから3億円持っている人と30年間毎年1000万円もらい続ける人のどちらが得かという話。著者の主張は、後者の方がバランスシートが小さくなるから良いというものですが、これ、本当でしょうか?

ファイナンスの観点からは、少なくとも金利がプラスであれば上記は誤りです。3億円を30年間運用するのと、毎年1000万円を積み立てて運用するのでは、前者の方が利潤は大きいです。 著者の主張である「どうなるかわからない将来の収入が安定しているから良い」というのも、ちょっと変です。どうなるかわからないのであれば、今のうちに貰っておく方が良いに決まっています。だから金利というものが存在するんです。そもそも、著者の「バランスシートは小さい方が良い」という主張そのものに根拠が見当たりません。

また、「株を発行するより借金をした方が調達コストが低い」という主張もありますが、これもちょっと変。「株の調達コストが借金よりも高い」理由として、「事業が成功した時に株価が高く売れることを期待しているから」ということを挙げていますが、事業が失敗したときのことを全く見落としています。株は事業が失敗しても現金を返す必要がないので、むしろ調達コストは借金よりも安いんですよ。

さらに、「サービス業の場合は設備として持たなければならない固定資産が少なくないので、製造業に比べて自己資本比率は高くなる傾向は確かにある」そうですが、これも甚だ疑問です。まぁ「サービス業」の定義が曖昧なので何とも言えませんが、仮に著者の所属する情報サービス業だとしても、データセンター1つと、プリウスの工場1つでは、圧倒的に後者の方が固定資産の額は大きいですよね。

 

・・・という感じで、挙げ始めたらきりがないというくらい、著者の主張は危うく感じます。もしかすると自分の興味がある情報だけしか吸収していないことが、少し視野を狭くしてしまっているんじゃないかなぁと感じてしまいました。 もちろん「弾言」というタイトル通りの著者の語り口は、読んでいて気持ち良いところはあります。まぁこういう考え方をする人も世の中にはいるんだなぁ、ということを知ったという意味では、読んでみて損という気はしない1冊でした。

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